呪いの解き方

気付いたときにはもうすでに理不尽な決まり事でがんじがらめになっていた自分に最近気付いた。まるで少しずつ呪いにかかっていたみたいだ。

 

私が恋愛をしてこなかった理由は、恋愛をする者は悪だと言い張った奴がいたからだ。

中学の部活の先生は体罰を振るう典型的な昭和スポ根教師。なぜだか蛍光色のティーシャツを好き好んでいつも着ていた。目がなんだか虚ろで口はへの字。顔を見るだけで気持ち悪くなった。

部活はバレー部だったのだが、私は一番下手でユニフォームを貰うのが一番遅かった。毎日練習しても、ぶたれるし、罵声を浴びせられるし、バレーなんてちっとも好きじゃなかった。上下関係も厳しく、先輩は怖い。後輩には抜かれて、スタメンになれない。中学生のときは大人より子どもの方が辛いんじゃないかと帰り道毎日思っていた。

スポ根教師は変な部則をたくさん作って、部員に守らせていたが、一番守らなくてはいけないのが恋愛禁止。男子と付き合ったことが発覚した場合には髪を短く切られた。恋愛禁止を破り、男子に間違われる短さに髪を切られた可愛い先輩を見たときに、私は女子としての可愛らしさとかを諦めた気がする。そして、そのときはっきりと恋愛は、してはいけないことなんだと洗脳された気がする。それほどに衝撃的だったのだ。

 

中学3年になってようやく、大会にも出られるようになり、バレーにハマっていった。高校でもバレーを続けた。しかし私は自信がなく、強豪校ではなく、中堅程度の高校を選んだ。

高校で女子の部活の上下関係は想像を絶した。月曜日の真冬の寒い朝、土日の練習試合のミーティングを部室で行うのだが、冷たい畳の上に正座で数時間。一方的にミスを責められる。

強豪校ではないので、私は1年生からコートに入らせてもらったのだが、2、3年生からのイビリが凄まじかった。そして、私はレフトエースとして起用されていたので、毎試合スパイクを一本でも多く決めることが求められた。毎回の試合で決定率をマネージャーに計算され、先輩や監督に伝えられる。二段トスも多く上がってきて、いつも決められるようなトスばかりではない。それでもスパイクを打つことを求められる。トスを呼ぶことが怖かった。周りの期待が重かった。いびられるくらいならコートに立ちたくなかった。

 

そんな暗い青春時代だったのだ。私の中で恋愛は、してはいけないものだったのだ。呪縛はなかなか解けなかった。ようやく最近、自分でも恋愛してもいいんだと一つ呪いが解けた。

 

バレーはまた大人になってから再開した。中学と高校でたくさん練習をしたから、経験値がある。縁があって強豪チームにも入ることができた。しかし、今日そのチームで実業団のチームと試合をしたのだが、全く歯が立たない。実業団のチームを見て、この人達はバレーでお金を貰ってるんだと思い知った。自分の何倍も努力してここに立っているんだと思った。眩しくプレーする姿を見て、その裏には濃い影があったのだろうなあと感慨深いものがあった。何かを犠牲にしてコートに立っている人もいるんじゃないかと。

 

今ではバレーの楽しさを知ってしまっているからやめられない。先輩たちも結婚もせずにバレーばかり練習している。スパイクを決めたときの高揚感は一度知ってしまったら、もう戻れない麻薬的な快感がある。負けたら悔しいし、上を見たらキリがないけど、常に自分たちより強いチームを見上げてしまう。途方に暮れる。自分がちっぽけに思える。いつもそこで、練習するしかないと自分を奮い立たせる。

 

普通の女子にはなれない。どこかでそう思っている自分がいる。なんとか普通の女子に見えるように、女子と喋るときは恋愛の話も分かっているように話を合わせる。本当は一つも分かっていない。

 

バレーを突き詰めてやるには、恋愛する余地が私にはない。切り替えができない。頭の中がバレーのことでいっぱいになる。

 

だからバレーで勝ち続けることを諦めた。先輩たちのようにバレーに人生を捧げることはできない。中高の頃の自分が大人になった自分が恋愛を頑張ろうとしているなんて知ったら、馬鹿にしそうだ。そこまでして男に媚びて好かれたいのか、と軽蔑しそうだ。

 

人生の中で、正しいことはその時々で変わってくる。だから他人から受けた呪いを自分で解くしかないのだと思った。